「交野山の巨石」

ボランティア解説員 中角甫

みなさんは「梵字」が仏さまとして崇められていることをご存じですか。梵字は一字一字が仏さまを表し、文字自体が信仰の対象になっています。
 さて、交野山の山頂には「観音岩」と呼ばれる梵字が刻まれた巨石が鎮座しています。
 大昔から、人々はこれを神や仏として崇め、今も親しまれ、付近には、この観音岩のほかにも梵字が刻まれた巨石が点在しています。
 今回は、石仏さんのお話から脱線して、巨石・梵字と、観音岩から発見された銅板を紹介します。


観音岩からの銅版

 

 

観音岩の北側には、長方形の孔が開けられ、そこから文字の刻まれた銅板が出土しました。
 この銅板は、寛文10年(1670年)に製作されたもので、天台宗京都猪熊荒神という寺の僧・實傳が、岩倉開元寺を再興し、交野山周辺の巨石群に荒神、観音、大日如来を表す梵字を刻み、合わせて経典(仏の教えを記した文章)を埋めたと記されています。
 實傳は法印という最高の位にある僧で、ほかにも源氏の滝に不動明王を表す梵字を刻んだことや、八大龍王社、不動堂、毘沙門堂を建立した記述などが銅版に見られます

観音岩出土銅版の拓本

 

観音岩
(丸で囲んでいる部分が銅版納入孔)

三宝荒神  

観音岩出土銅版の拓本

石仏の道を登っていくと、ゴルフ場からの道「ヤマカゼの小路」と合流します。そこを左に進むと山頂への道になります。
 その道を進むと、三宝荒神を表す梵字「 (ウン)」が刻まれた巨石に出会います。
 三宝荒神は「かまど」の神とされており、巨石の右側には、寛文六年(1666年)の年号が刻まれています。


聖観音
 三宝荒神の巨石を過ぎて、急な坂を登りきると観音岩があります。
 この巨石の西面には縦216・、横203・もの大きさで、聖観音を表す梵字「 (サ)」が刻まれています。
 聖観音は現世の生活に悩む人から苦しみを除く仏で、阿弥陀如来の化身と考えられています。
 観音岩からの眺めはすばらしく、北は京都市街、西は大阪湾から六甲山脈などが見渡せます。

大日如来
 観音岩を過ぎて下って行くと、大日如来を表す梵字「 (ア)」が刻まれた巨石が見えます。
 大日如来は、色も形も超越した絶対的な仏とされています。
 ふと思ったのですが、大日如来の「ア」と三宝荒神の「ウン」が、東大寺南大門の国宝・金剛力士像(運慶・快慶作)や狛犬の「阿形」「吽形」と同じ配置になっています。偶然なのか意図的なのかは分かりませんが、交野山の観音岩も「ア」「ウン」に守られているような気がします。

 

大日如来の梵字

不動明王
→→
源氏の滝
(丸で囲んでいる部分が梵字)

 大日如来の巨石を過ぎ、白旗池で遊泳するオシドリやカモを眺めながら、源氏の滝まで下山します。
 源氏の滝の左側を見上げると、不動明王を表す梵字「 (カーンマーン)」が刻まれています。
 不動明王は、すべての障害を打ち砕き、仏道に従わないものでも導き救済するという役目を持っています。
 前号までに紹介しました里の石仏さんのお顔には優しさがあり、見る人の心をほっとさせてくれます。
 しかし、今回紹介した梵字の仏さまは、薬研彫りという断面がV字型になる彫り方で刻まれており、その前に座り厳しい修業を積んでいた当時の修験者の姿を想像することができるのではないでしょうか。

 第3回石仏さんツアー 
〜星田界隈〜

交野の中でも鎌倉時代に製作された古式の石仏が多い星田地区を訪ねます。また今回が石仏さんツアーの最終回です。ご参加お待ちしています。

と き 1月29日(火)〈雨天中止〉
集 合 午前9時30分に、星田駅改札口
定 員 先着30人
参加費 300円(資料代、保険代)
申し込み・問い合わせ 1月10日(木)から文化財事業団(TEL893・8111)