可搬式欧州で利用拡大 |
村田さん お久しぶりです。 懐かしい記事がありました。 今般の水害に関連し、揖保川の正條地区の畳堤(たたみてい)について、「ソロモンの頭巾 可搬式欧州で利用拡大」『産経新聞』11月6日付け(東京版12版)6頁に掲載されています。 龍野の水神神社付近の揖保川堤防も同じ構造で、コンクリートの柵状で畳を横にして上から入れる構造になっています。畳は水を含むと強度が増すので、洪水に耐えられます。 正條では、昨年7月の西日本洪水時に実際に畳を入れ込んだそうです(写真付き)。 私の見たのは『産経新聞』東京版ですが、図書館ででもご覧になってください。 乾拝 |
参照 産経新聞 2019/11/06 【ソロモンの頭巾】長辻象平 |
大雨で河川の氾濫が相次ぐ中、「畳堤(たたみてい)」を見た。 川が増水したときに畳を使って防水力のかさ上げをする特殊堤防だ。 普段は川沿いの堤防上にコンクリート製の柵が並んでいるだけだが、水位が上昇すると畳を1枚ずつ柵に横並びにセットする。 兵庫県たつの市南部の正條(しょうじょう)地区。市内を瀬戸内海に向かって流れる揖保(いぼ)川(一級河川)の堤防上に畳堤の柵が走っていた。 水辺の風景を損なうことなく防災力を高めたいという先人の願いが、いまなお生きている。気候変動の現代に異彩を放つ存在だ。 |
◆欄干に畳はめる 正條自治会役員の澤村良親さん、圓尾和也さん、古寺敏秀さんらによると畳堤が完成したのは昭和32(1957)年ごろ。 たつの市内の3カ所に建設されており、正條地区の畳堤は、その1カ所だ。 同地区の堤防上は車も通る道路を兼ねていて、その川側に全長約250メートルのコンクリートの柵が続く。柵の支柱は胸の高さなので知らない人は転落防止の欄干と思うことだろう。 だが、よく見るとすべての支柱の側面には上から下まで溝が通っている。 「この支柱と支柱の間に畳を横向きに、はめ込むのです」と教えられた。 畳は水を吸うと膨らんで強度も増すので格好の防壁素材だったのだ。いざとなれば各戸から持ち寄れた。土嚢(どのう)を上回る便利さだ。 |
◆西日本豪雨で初 昨年7月の西日本豪雨で揖保川は、かつての暴れ川の素顔を見せた。 「水位はどんどん上昇し続けました」と役員諸氏は同月7日の増水ぶりを振り返る。 畳の使用を決断したのは深夜だった。保管倉庫から運び出した約100枚の畳を、自治会の役員30人が大雨の中ではめ込んだ。近所の人たちも手伝った。自治会の防災意識は高く、10年前から毎年訓練を続けていたので、その成果が発揮されたのだ。用意していたヘッドライトも夜間の作業に役立った。 このあたりの揖保川は幅約400メートル。ふだんの河水は堤防の約6メートル下を流れているのだが、この増水時には畳が漬かる寸前まで濁水が迫っていたという。設置から60年以上を経て、初めて迎えた畳堤の出番だった。 「畳堤の活用は地域の方々による地域を挙げての取り組みです。ソフト面の強化という意味で、水防災社会の歴史的シンボルではないでしょうか」。揖保川を管理する国土交通省姫路河川国道事務所調査課長、前羽利治さんの感想だ。 |
◆独ではアルミ板 畳堤は「可搬式特殊堤防」に分類される。英語では「モバイルレビー」。国士舘大学理工学部教授の二井(にい)昭佳さんによると、近年のドイツをはじめとする欧州では、可搬式堤防を用いた治水整備が積極的に進められているという。 頻度の高いレベルの水位上昇は通常の固定式堤防で、それ以上の洪水には可搬式堤防で対応しようという考えだ。 洪水への安全を確保しつつ、普段の堤防の高さを低く抑えることで、歴史的都市と川が一体となった美しい景観が保たれる。 二井さんはドイツとオーストリアで、ライン川やドナウ川水系の諸都市で導入されたモバイルレビーの調査研究を重ねている。例えばドイツ・バイエルン州の小都市ミルテンベルクのモバイルレビーは、畳の代わりに15センチの高さに分割されたアルミ製の止水板を鋼鉄製の柱の間に人力ではめる仕組みだった。 同様の可搬式の堤防はチェコの首都プラハにも展開されている。2002年の大洪水時にはブルダバ川が500年に1度という水位に達したが、世界遺産に指定されている市街地を守り抜いたと伝えられる。 |
◆国内3カ所存在 日本国内の畳堤は宮崎県延岡市内の五ケ瀬川、岐阜市内の長良川にも存在して計3カ所。大正末から昭和初期のころに設置された延岡のものが最も古い。 洋の東西では欧州の方が歴史は浅い。ドイツやチェコの人々が日本の畳堤を知ると驚くことだろう。 勾配の差に伴う増水ペースなど河川の性質は異なるが、近年の洪水対策として欧州で可搬式堤防の整備が進められている状況は注目に値する。 京都でもモバイルレビーが検討されているという。日本で国際畳堤サミットを開催できれば、水害への防災意識はさらに高まると思うがどうだろう。 |